MBTIでゲームのマーケティング戦略を考察してみた

MBTIでゲームのマーケティング戦略を考察してみた

きっかけ

「どんなゲームが売れるのか?」
「ゲーム会社はどうマーケティング戦略を立てるべきか?」
「インディーゲームはどうやったら商業に飲み込まれず生き残れるのか?」

こういったマーケティングに関するテーマについては多くの人が分析しています。
特に事業会社がゲームを作る場合はマーケティング次第で収益が大幅に変わるので徹底的に考察しているでしょう。
しかし、性格分類を用いた考察はほとんどないと思われ、マーケティング戦略に一石を投じるべく考察していきたいと思います。

MBTI

MBTIについて既にご存知の方はこの項目を飛ばしていただいても大丈夫です。

MBTIでは、人間の性格を4つの軸に分け、それぞれの軸は2つの対立する要素からなっています。
その結果、2の4乗で16タイプの類型に分かれることから、16タイプ性格診断などと呼ばれることがあります。
4つの軸は、以下のようなものになっております。

①外向(E) VS 内向(I)

この軸は心のエネルギーの向きです。
外向型の人間は人との交流を好むのに対し、内向型の人間は一人の時間を大切にする傾向があります。

②想像(N) VS 現実(S)

この軸は日本語では「直感(N)VS感覚(S)」という説明がされることが多いですが、個人的には「想像(N) VS 現実(S)」という表現がしっくり来ています。
想像型の人間が思考や想像上の物事を好むのに対し、現実型の人間はより具体的で生活的なことを好む傾向があります。

③論理(T) VS 情緒(F)

この軸は意思決定のスタイルについてのものです。
論理型の人間は共感などを排しドライに意思決定するのに対し、情緒型の人間は共感を大切にしながら意思決定する傾向があります。

④計画(J) VS 冒険(P)

この軸は戦略の立て方についてのものです。
計画型の人間が筋道だった緻密な道筋を描くのに対して、冒険型の人間は好奇心に任せてどんどん突き進む傾向があります。

まとめ

例えば、外向・想像・論理・計画のような人はENTJという記号であらわされ、ENTJの人は組織のリーダーなどに多いと言われています。
このように、4つの軸で人間のパーソナリティを分類するのがMBTIです。

考察

ゲーマーはISTP型

ISTP型は職人タイプと呼ばれることが多い類型です。
ワンピースのゾロのような一匹狼タイプの武人キャラをイメージすると分かりやすいでしょう。
特に個人競技のスポーツ選手に多いタイプであり、e-Sportsの選手もISTP型が多いように見受けられます。
そのため、ゲームを「ガチ勢」であるゲーマー向けにしたい場合や、e-Sportsの一部門に位置付けたい場合などには、ISTP型の志向にマッチしたものにすることが重要だと考えられます。

また、ISTP型は人口に占める割合が多いタイプであり、特に男性に多く見られます。
ゲームをe-Sportsにするつもりがなくても、マス層であるISTPに好まれるようなゲームにすることはマーケティングで重要であると言えます。
ただし、ISTPが好むようなゲームは既に飽和状態にあるとも考えられるため、人口の多くを占めるSF型に訴求することで活路を見出す戦略も重要でしょう。この点については次のパートで考察します。

SF型にも強い任天堂

SF型とは、S型(現実型)とF型(情緒型)の組み合わせであり、生活的で地に足のついたことを重視して人との和を重んじるタイプです。
S型はN型よりも多く、一説にはS:N=7:3ぐらいの比率だと言われています。
また、F型は女性に多いタイプでもあります。
したがって、世の中の女性の多くはSF型であると考えられます。

一方、インターネットの言論空間で目立つのはT型であるように見受けられます。
ISTPを中心としたゲーマーや、NT型を中心とした評論家が意見を発信している様子はよく見られるのに対し、SF型はあまり意見を発信していないように見受けられます。(旧Twitterや旧2chの「ゲハ」を思い返してください)
一方でSF型は人口に占める割合が多いので、SF型はサイレントマジョリティと言えるでしょう。
そのため、ネットの言論を真に受けるとサイレントマジョリティであるSF型のニーズを見落としてしまう危険性が高いです。

SF型のニーズをしっかりと汲めているのは任天堂でしょう。
例えば爆発的にヒットしたWii Sportsは、題材がスポーツという生活的で地に足のついた内容になっており、S型にとっても受け入れやすいものになっています。
また、T型が競争志向が強いのに対して、F型は集団の和を重んじる傾向にあります。
最近の任天堂のゲームはパーティーゲームでなくともマリオやカービィを中心に協力プレイができることがほとんどで、家族や友達と和気あいあいとプレイしたいというSF型のニーズをしっかりと汲めています。

ゼルダの伝説はなぜ売れたのか?

ゼルダの伝説は独特の世界観や謎解き要素で根強い人気を誇るシリーズです。
独特の世界観はNF型(想像-情緒型)に、謎解き要素はNT型(想像-論理型)に強く訴求するものと思われます。
しかし、前述の通りN型は人口に対する割合が小さく、ブレス・オブ・ザ・ワイルドやティアーズ・オブ・ザ・キングダムの爆発的ヒットを説明できません。

理由の一つとして考えられるのは、謎解き要素を純粋なパズルから物理シミュレーションに移行させたことが挙げられます。
純粋なパズルは抽象度が高すぎて現実感が全くないですが、祠のような物理シミュレーションを活かしたパズルは現実感がありS型にも広く受け入れられやすいと考えられます。

次に、アクションの完成度の高さが考えられます。
ゼルダの伝説でおなじみの「敵の攻撃を利用する」という要素に加え、今風のアクションゲームによくあるジャスト回避やパリィなどが追加されましたが、これはST型のゲーマーが好む要素です。

売上が一定のラインを超えると、流行に非常に敏感なタイプであるSF型が購入に踏み切り、この段階から飛躍的に売り上げが伸びたものと思われます。

「ビキニアーマー」

ビキニアーマーとは、古くはドラクエの女戦士のようにビキニのような露出度の高い服の上に甲冑(アーマー)を着ているというものです。
最近ではソシャゲなどで女性キャラクターが甲冑ではなくモビルスーツのようなもので武装していることもありますが、肌の露出面積が大きい部分は変わっていません。
肌の露出面積が大きい女性を起用することが男性をターゲットとしたマーケティング戦略であることは明らかですが、なぜ「武装」という要素を組み合わせているかについては「男性の好きそうなものだから」で片付けられる傾向にあります。

この点について、MBTIを使ってもう少し深掘りしてみましょう。
まず、T型・F型には性差があり、男性にはT型(論理型)が多く、女性にはF型(情緒型)が多いです。
T型の特性として、

  • 共感が弱い
  • 競争志向が強い
  • 力(武力、権力など)に対する志向が強い

という点があります。
武装という行為は武力の誇示という面が強く、T型の志向にマッチしています。
男性にT型が多いことを考えると、「武装は男性が好きそうなもの」という直観はこの点からも妥当と言えるでしょう。
そもそもなぜ男性にT型が多いのかということに関しては諸説ありますが、ジェンダーロールの影響や進化上の適応性などが考えられます。

レッドオーシャンのパズルゲーム

次に視点を変え、ゲームを作る側に移ってみようと思います。
以前に「MBTIでインディーゲーム製作者を4つに分類してみた」という記事で考察した内容をさらに発展させようと思います。

まず、インディーゲーム製作者にはN型が多いと考えられます。
創作が想像型であるN型にマッチすることや、会社勤めのゲーム製作者のうちS型が組織に順応しやすいのに対してN型は順応できない場合があり、そういった場合に趣味や独立といった形でインディー側に流れてくる事例が多く見受けられます。
男性の場合はT型が多いので、男性のインディーゲーム製作者にはNT型の割合が世の中の平均に比べて多いと言えるでしょう。

NT型はシステム志向であり、物事のルールや法則といったものの分析が好きで、時にはそれを大胆に変更してしまいます。
そういったNT型にとって、パズルゲームというのは抽象化されたシステムそのものであり、NT型はパズルゲームを好んで作りたくなる傾向にあります。
さらに、パズルゲームはアクションゲームなどに比べて製作コストが低いという点もパズルゲームの飽和に拍車がかかっています。

上記は供給側の話でしたが、次に需要側の話をすると、パズルゲームはNT型以外にはそこまで人気ではないように見受けられます。
ぷよぷよのようにスポーツ化することでST型を取り込んだり、魅力的なキャラクターを追加してF型を取り込むなどの戦略がないと、ターゲット層が人口に占める割合の少ないNT型だけでは需要を食い合うレッドオーシャンになってしまい、埋もれてしまうものと考えられます。

おそらく、ゲーム会社はこのことを理解していて、パズルゲームに対する過度な参入は明確な戦略が無い限りは控えているものと思われます。
ただ、インディーゲームの場合は収益を度外視して趣味を全面に押し出すことができるため、パズルゲームが飽和しているという状況になっているのでしょう。

そこそこ競争の激しいノベルゲーム

次は女性のインディーゲーム製作者について考察します。
男性と同じ理由でN型が多いですが、女性にはF型が多いので、NF型(特にINFP)が世の中の平均に比べて多いと言えるでしょう。
NF型は物語志向であり、豊かな想像力や人の繊細な心の動きを捉える情緒性を活かして、自分の世界を物語というキャンバスに表現することに長けています。
さらに、ノベルゲームには専用のエンジンがあるなど参入しやすい環境にあることもノベルゲームの増加に繋がっています。

上記は供給側の話でしたが、次に需要側の話をすると、供給側に比べて需要側にはN型が少ないため競争が激しくなる要因になっています。
ただし、極端に現実離れした物語でない限りはSF型にも受け入れられる可能性があり、専らNT型をターゲットとしたパズルゲームのレッドオーシャンぶりに比べると競争の激しさは幾分か緩いと想定されます。

EJ型の親に嫌われないために

以前に「MBTI別の好きなゲームを考察してみた」という記事でも考察したのですが、ゲームが大好きなのは基本的にISTP・INTP・INFPなどIP型(内向-冒険型)であって、逆にEJ型(外向-計画型)はゲームをあまりしないように見受けられます。
おそらく、自分の世界に籠らず人とのかかわりを求めるE型の志向と、ゲームのような「遊び」に抵抗がある真面目なJ型の志向がそうさせているのかもしれません。
ゲームをやらないだけであればマーケティングの対象から外せばよいのでそこまで問題にならないのですが、問題はEJ型である親がゲームに忌避感を持っている場合です。

EJ型である親であれば、「子どもには自分の世界に閉じこもってほしくない」「ゲームのような享楽的な遊びばかりしてほしくない」と考え、ゲームに対して忌避感を持つ可能性があります。
「ゲーム脳」という言葉が流行した背景には、それが科学的に正しいからというよりもこうしたEJ型の親の支持があったというのが要因だと考えています。
こうした忌避感の結果、ゲーム会社は潜在的な顧客である子どもを失ってしまうという大きな損失を被ります。
特に任天堂はこの点に関して非常に意識しているようで、公式サイトの「保護者のみなさまへ」というページからもそれが伺えます。
EJ型はJ型であるため保守的でありゲームに対する忌避感を取り除くのは難しいと思いますが、家族全員で遊べるゲームのCMを打つなどのイメージ戦略を通じて徐々にEJ型の理解を得ているように見受けられます。

まとめ

MBTIを切り口としてゲームのマーケティングに関する考察を列挙してみました。
こうして考えると、任天堂はSF型やEJ型なども取り込む戦略を採っているのだと見え、「任天堂は幅広い層に支持されている」となんとなく思っていたところから思考が整理されてクリアになりました。
私はインディーゲーム製作者であり、マーケティングよりも趣味を押し出したいと思っているのですが、それでもある程度プレイしてもらってゲーム業界に一石を投じたいと思っているので、「レッドオーシャンは避ける」ぐらいのスタンスでおります。

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