インディーゲームの製作に行き詰まりを感じている話
究極の格差社会、再び
以前にこの記事で定量的に検証したとおり、インディーゲームの世界というのは究極の格差社会です。
私は専業のゲーム開発者ではなく、あくまで趣味としてゲーム製作をしております。
そのため、ゲーム製作で経済的に成功することよりも、趣味や自分のやりたいことを優先しています。
ただ、完全に趣味に走って何も対策しなければほとんどプレイしてもらえないのが現実です。
インディーゲームの世界は、ごく少数の開発者がプレイヤーを巨鯨のごとく掠め取り、一方で過半数の開発者は自身のゲームに低評価すらつかないという、なんとも世知辛い構造になっております。
私も製作者の端くれとしてこの世界に身を置いて3年目になるのですが、正直なところどうも行き詰まりを感じてきております。
「石の上にも三年」とは言いますが、逆に言うと三年経っても状況が好転しなければ方針転換をするべきだとも言えます。
そう、私は今、岐路に立たされているのです。
インディーゲームの成功事例は盛んに喧伝される中で、こうした後ろ向きな話が表に出ることは少ないように思います。
だからこそ、一定程度価値のある情報になると思い、記事にすることにしました。
競争が激化する要因
定量的な考察は先の記事に譲るとして、競争が激化する要因を定性的に考察していこうと思います。
供給側の要因
ツールの普及
最も普及しているゲームエンジンのUnityは、初心者でも比較的簡単に扱えることや、一定の条件を満たせば無料で使えることから、ゲーム製作の敷居を大幅に引き下げました。
また、画像生成AIの登場の影響も大きく、作画コストが大幅に下がりました。
たとえ生成AIの使用を禁じたとしても、ある画像が生成AIによって生成されたかどうかを判別することは困難なことや、生成された絵を人間が手直しした場合はどうなるのかの整理が難しいことなどにより、実効性に乏しいと言わざるを得ません。よって今後も普及が進んでいくと考えます。
そして重要なことは、これらのツールは標準的なPCが一台あれば使用可能だということです。
例えば製造業であれば巨大な工場が必要であることが大きな参入障壁になっていますが、インディーゲームの世界には普通のPCが一台あれば容易に参入することができてしまいます。
規制に守られていない
私は専業のゲーム開発者ではなく、本業として大企業の管理部門でブルシットジョブをしております。
大企業の正社員である私は解雇規制によって守られており、また私の所属する業界は数多くの規制によって守られていて新規参入が事実上不可能になっています。
解雇規制と規制業種という二重城壁は、コンスタンティノープルのそれに匹敵する堅牢さを誇っており、競争の荒波から私を完璧に守ってくれています。
この二重城壁のおかげで、私の能力は大したことないのに安定と高給が保障されています(ただし、その代償として城壁の内部はブルシットまみれですが…)。
一方で、インディーゲームの世界には全く規制がありません。
強いて言えばプラットフォーマーによる審査が規制に該当するのでしょうが、審査を通ったからといって全く安泰ではないです。
インディーゲームの製作やリリースに資格は必要ありませんし、個人事業主としてやる分には学歴も必要ありません。
業界単位の規制も個人単位の規制も無いようなものなので、二重城壁どころかそもそも城壁が存在しないノーガード状態なのです。
大成功したインディーゲーム製作者であっても、怒涛の勢いで殴り込んでくる新規参入者との終わらない競争に明け暮れているようで、その内情を察するに「天上人」とは気軽に言えないぐらい辛い状況に置かれているように思えます。
私はインディーゲームの世界に足を踏み入れたことで、ブルシットジョブをさせていただいていることに対する感謝の気持ちが湧いてきて、むしろ勤労意欲が回復しました。
かなり本末転倒というか歪な事態ではありますが、これはこれで興味深い経験でした。
コンスタンティノープルの二重城壁が無ければ、東ローマ帝国の滅亡は遥に早かったはずだ。
需要側の要因
プレイヤー数の頭打ち
先進諸国はどこも少子高齢化が進んでおり、潜在的なプレイヤー数は縮退する一方です。
また、ゲーム市場は既に成熟しており、コロナによる巣ごもり需要などの一時的な変動要因はあれど、基本的には微減傾向でしょう。
若者のタイパ志向
そして、最大の誤算がこの点です。
「タイパ」とは「タイムパフォーマンス」の略であり、時間効率や時間対効果を意味します。
動画配信サービスの倍速再生モードやTikTokなどの短縮動画アプリは若者のタイパ志向を満たすため人気を博しています。
私はこの流れを「数十分でプレイが終わるインスタントなゲームに対する追い風」だと思い込んでおりました。
しかし、実態はどうやら違うようです。
手軽さで言うとブラウザゲームが一番のはずなのですが、「ニコニコゲームアツマール」のサービス終了に象徴されるようにブラウザゲームはマネタイズが困難なままです。
次に手軽なのはスマホゲームでしょうが、こちらも市場の拡大が頭打ちでレッドオーシャンであることに変わりはなさそうです。
これは想像なのですが、若者のタイパ志向とは、「プレイ時間を短く済ませたい」というものではなく、「面白いゲームを探す時間がもったいないから人気タイトルだけプレイする」というものに近いのかもしれません。
この読みが当たっている場合、若者のタイパ志向は追い風であるどころかむしろ逆風に他なりません。
生存戦略を考える
ニッチ戦略
インディーゲーム製作者が生き残るために真っ先に取りがちな戦略です。
ただ、誰もが考える戦略であることから実効性には疑問があります。
ニッチだと思っていた分野でも意外と先駆者が多かったり、逆にニッチすぎてプレイヤーがほとんどいなかったりすることが大半ではないでしょうか。
また、市場調査はプロが圧倒的に強い分野です。
プログラミングやCG製作のノウハウは本やインターネット上にありますが、市場調査のノウハウはそれに比べると非常に少ないように見受けられ、個人で市場調査をしようにも限界があると考えます。
ニッチ戦略が大いに有効なのは、暴力表現や性的表現を含むゲームでしょう。
さきほど「インディーゲームの世界には全く規制がありません」と言いましたが、当然のことながら法の縛りは受けますし、業界団体が自主規制を敷いている場合もあります。
暴力表現や性的表現のグレーゾーンを攻めることは大手にとってリスクが大きすぎ、さらに法や自主規制に照らして問題が無かったとしても炎上してしまうリスクがつきまといます。
無名であり、気にするような評判がそもそも無い個人製作者だからこそできる芸当でしょう。
ただ、私はそもそも人間どころか生物すら全く出ない無機質なゲームしか作っていないので、別の戦略を考える必要があります。
参入困難な分野に絞る
以前、この記事で物理シミュレーションゲームの「ブルーオーシャン」について考察しました。
Unityなどのゲームエンジンにはデフォルトで流体の挙動を表現する仕組みがなく、自力で実装する必要があります。
しかし、流体力学は大学の理系教養レベルを超える高度な分野であり、その時点で医師免許並みの参入障壁があると言えます。
物理シミュレーションゲームの「ブルーオーシャン」は、文字通り流体の物理である――そう考えた私は、流体の物理シミュレーションゲームの開発に邁進しました。
この戦略は成功を収め、特にTsunami Tacticsは私の最大のヒット作になり、公開から一週間で3,000人を超える人々にプレイしていただけました。
数学や物理は巨大な参入障壁として機能することに気づけたのは大きな前進です。
隣接領域に進出する
そもそもゲーム製作者を辞めてしまおうというドラスティックな発想です。
私が喜びを感じるのはゲーム製作というよりは物理シミュレーションの方な気がしておりますし、ゲームというのはあくまでも表現の一形態に過ぎず、その枠に囚われない方がよいと思えてきました。
教育分野の特性
可能性を感じているのは教育分野です。
少子化が進むと子ども一人当たりに対する教育資源投下量が増えるため、教育市場は意外と縮退しないと考えております。
また、首都圏の中学受験の異常な過熱ぶりを見るに、教育市場はセグメントによってはむしろ成長しているとすら言えるかもしれません。
そして何を隠そう、私は実は東大卒なのです。
例えば教育系YouTuberの界隈では河野玄斗氏やコバショ―氏など東大卒の人物が(良くも悪くも)圧倒的な存在感を誇っております。
また、ヨビノリたくみ氏は初期ではサムネイル画像に「現役東大博士課程」と大々的に表示しており、その後ブレイクしたことからもマーケティング戦略として大いに有効だということが分かります。
このように、東大の経験と肩書は教育業界において非常に大きな優位性があります。
過去の成功体験に縋るようでみっともないかもしれませんが、丸腰で競争に晒されるよりは遥にマシですし、使える武器は何でも使っていきたいですね。
ただし、話題が学歴ネタや受験戦争にシフトしていくことは避けるべきです。
これらは炎上しやすいコンテンツでもあるためPV数は稼げるかもしれませんが、目立つことが目的ではないですし、本末転倒な事態に陥ります。
ヨビノリたくみ氏のように、初期は肩書と経験を有効活用し、ある程度安定してきたら自分の色を出していくというスタンスにすべきだと思います。
ヨビノリたくみ氏の初期のサムネイル画像。その集客力は絶大だ。
教育×ゲーム
教育系YouTuberが手を出すのは専ら数学がメインです。
特に中学数学以上が多く、場合によっては理系教養レベルの大学数学が扱われることもあります。
日本は医師以外の理系が報われない社会だと言われている一方で、数学には並々ならぬ関心が寄せられていることは不思議であり、この点については今度別の記事で考察しようと思います。
一方で、YouTubeに関しては数学以外の分野や、小学校レベルの算数などはあまり多くないように見受けられます。
ゲームという表現手段の強さは、小学生どころか幼児でも直感的に楽しんで学べることです。
特に物理シミュレーションゲームは積み木遊びや砂場遊びのようなものですし、ストーリーや複雑なルールが無いので情緒が発達していなくても全く問題ありません。
「無料で遊べる電子知育玩具」としてブランディングを図るのもいいかもしれません。
まさに、「幼児のノリで学ぶ数学・物理」なのです。
最後に
インディーゲームの世界という究極の格差社会を再考し、どう生き残るかを考察しました。
この手の話では「インディーならニッチ戦略!」と強調されがちですが、私のアイデアは「幼児のノリで学ぶ数学・物理」という、いわば壮大な幼稚退行なのです。
果たして、うまくいくのでしょうか…?