スケールが変わるだけではない
絵を描いていると、大きいスケッチブックに描くときと小さいポストカードに描くときとでは、単純にスケール(縮尺)が変わるわけではないということに気づきました。
例えば、大きいスケッチブックに描くときは絵の具がサッと伸びてくれるのですが、小さいポストカードに描くときは絵の具の水滴が葉っぱに載った朝露のように丸まってしまい広がってくれないときがあります。
このように、マクロの世界(大きいスケッチブック)とミクロの世界(小さいポストカード)では、意識しなければいけない物理的な力が変わってきます。
そして、もちろんこれは絵を描くときだけではなく、我々の生きる世界にとって普遍的なものなのです。
マクロの世界とミクロの世界を支配する力の違いについて語っていきたいと思います。
マクロの世界を支配する力
まず、マクロの世界を支配する力、それは重力です。
なぜマクロの世界を支配する力が重力なのかをイメージするために、以下の図のような例を考えてみましょう。
いま、右側の四角柱は左側の四角柱の2倍のスケールです。
すると、底面積は4倍、体積は8倍になります。
ここで、密度が一定であると仮定すると、重力は体積に比例するので、右側の四角柱の重力は左側の四角柱の8倍になります。
一方で、重力は鉛直方向に働くので、図の矢印のように下向きに働き、それを底面積で支えることになります。
すると、右側の四角柱は支える部分(底面積)が4倍である一方で、支えなければいけない力(重力)が8倍にもなり、重力の影響がより大きくなります。
このように、マクロの世界の方が重力の影響を受けやすいということがわかります。
実際に現実の世界を見てみると、ゾウなどの大きな生き物は足が太く、底面積が大きくなっています。大きな生き物はずんぐりむっくりしていますね。
一方で、昆虫のような小さな生物は足が非常に細くても立っていられます。
ミクロの世界を支配する力
次に、ミクロの世界を支配する力、それは表面張力です。
表面張力とは、液体や固体が表面をできるだけ小さくしようとする性質のことです。
最初に例に挙げたような水滴が葉っぱの上で丸まってしまうのは、表面張力によるものです。
ミクロの世界では重力の影響は小さい一方で、この表面張力が支配的になってきます。
例えば私たちは湯船に何の苦労もなく足を入れられますが、体が小さな虫にとっては水面が非常に強い膜のように感じられ、それを突き破って水中に入ることは困難です。これでは水を飲むのにも大変苦労してしまうでしょう。
また、水面の張力によって支えられるため、水面を跳ねることなく移動できる昆虫、アメンボのような例もあります。これは脚の構造と表面張力をうまく活用した巧妙な適応です。
終わりに
マクロの世界とミクロの世界は縮尺が変わるだけでなく、支配的になる力が変わります。
ウルトラマンやガンダムのような巨人の世界や、アリやミジンコのような小さな生き物の世界を想像するときには、スケールだけが変わったものだと思いがちですが、実はそうではないのです。
彼らはその意味でも住んでいる世界が違うと言えるのでしょう。