魔都・東京

魔都・東京

エリートたちの過酷な子ども時代

地方の平凡な家庭に生まれた私は、大学進学を機に上京しました。
非競争的な地方でのほほんと過ごしてきた私は、都市部出身の大学同期たちと話してカルチャーショックを受けました。

まず、中学受験の実態を知って驚きました。
小学4年生ごろから塾に通い詰めになるらしく、その負担はどうやら子どもたちの生物学的な限界に迫っているようでした。
中学受験がうまくいって名門中高一貫校に入れたとしても、エリートたちの中で成績を維持しつつ6年間を過ごすのは過酷であり、脱落して「深海魚」になってしまう人も一定数いるとのことでした。
要するに、小4からずっと受験勉強をし続けるような生活を送ってきたということです。
こういった話を聞いたとき、東京とは非常に競争的な「魔都」なのだと理解しました。

真面目過ぎるエリートサラリーマン

過酷な就活戦線を満身創痍で生き抜き、何とか会社員になることができた私は、そこでもカルチャーショックを受けます。
それは、東京の大企業に勤めるエリートサラリーマンたちがあまりにも真面目過ぎたからです。
地方にはそもそもエリートサラリーマンがいないため、私はそれまでエリートサラリーマンという人種を見たことがありませんでした。
エリートサラリーマンたちは平日は夜遅くまで働き、休日はゴルフに勤しんでいました。
確かにエリートサラリーマンの年収は高いですが、それでも労働者に過ぎず、年収の天井はせいぜい千数百万円程度です。
キャリアの晩年に最大瞬間風速的に医者の平均年収に届くかどうかという話であり、しかもそれでもかなり運良く出世できた上澄みのケースなのです。
さらに、東京の場合はとにかく住宅費と教育費が高すぎるため、それらを控除した後の実質的な収入はずっと低くなります。
このことを考えると、「真面目に働くメリットってそんなにあるかなぁ…?」と思えてしまうのですが、なぜかエリートサラリーマンたちは非常に真面目であり、そして競争的でした。
恐らく、エリートサラリーマンのほとんどは都市部の出身者であり、子ども時代から競争的な風土に順応してきたのでしょう。

家は住むものではない

昨今では東京の不動産価格の上昇が著しいです。
タワーマンションだけでなく、23区内であれば戸建ての物件価格の上昇も著しいです。
10年以上に都内の住宅を購入した人であれば購入時よりも値上がりしていることが多く、その場合は住宅を売却すれば差額分が儲かるので、「家に住むと住宅ローンの返済に追われるどころか逆に儲かる」という直観に反する現象が起きます。
このことが有名になってからは、「家は住むものではなく投資するもの」という考えが広まり、居住用に住宅を購入して住宅ローンを引っ張ってきた上で売り抜けを虎視眈々と狙う人が増えてきました。
そしてそもそも不動産価格が高くなりすぎて、売り抜けなどの明確な出口戦略がなければとても購入できないものになってしまいました。
都内で住宅を購入しても、過重な住宅ローンを背負い続けるか出口を考えねばならず、文字通り安住することはできないのです。
家は住むものだと思っていた私にとって、これは大きなカルチャーショックでした。

人口のブラックホール

東京一極集中は進み続け、東京に転入してくる人は東京から転出する人よりもずっと多い状況が続いています。
また、若い層の人口流入が多いため出生率(人口に対する出生数の比率)は高くなっていますが、合計特殊出生率(仮にその年次の年齢別出生率で一生の間に生むとしたときの平均子ども数)は2022年では1.04と全国最低になっております。
つまり、東京は若者を中心とした多くの人々を吸収する一方で子どもが産まれないという、まさに人口のブラックホールになっているのです。
そして、地方の若者供給能力は限界を迎えつつあります。
地方が消滅すると東京は人口の供給源を失ってしまい、東京もまた急速に衰退していくことは避けられません。
東京はその経済力から盤石な存在かのように見えますが、実際には単体では持続不可能な砂上の楼閣なのでしょう。

蛾の夢

魔都・東京。
大都会の華やかさに魅了されやってきた若者たちは非常に競争的な風土で絶えず闘い続け、そして断種されていく者が少なくありません。
運よく子どもを残せたとしても、その子どももまた過酷な競争社会で生きざるを得ず、親子共に安住することは難しいのでしょう。
移住してきた時点で、持続可能な未来を描くのが難しくなってしまっているのです。
大都会の華やかさとはさながら夢のようなもので、実はやってきた若者たちは誘蛾灯に導かれてしまった蛾なのかもしれません。

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