ノイズキャンセリング・ダイビング

ノイズキャンセリング・ダイビング

せかせかした都市

大都会の電車に乗ると、否応なしに広告を見せつけられます。
特に美容系の広告が多いように感じられ、「脱毛しろ!」だの「髪の毛を生やせ!」だのせかして来られると「どっちやねん!」と言い返したくなるのですが、広告とは一方的なものですので言い返すことすらできません。
都会の異常に厳しい競争社会ぶりは会社の中に留まることがなく、休息の場に思えるカフェでもせかせかとWeb会議をしていたり、意識の高い会話を大声で繰り広げる御仁がいらっしゃったりします。
昔はこうした都市の雰囲気に飲まれ、私も少しせかせかとしていたのですが、競争に嫌気が差してしまったせいなのか、それとも田舎でのほほんと育った生来の気質は変えられないせいなのか、今ではただダメージになるだけなのです。

修行

真の賢者であれば、上記のようなせかせかとした場所でも動じることなく思索に耽ることができるのでしょうが、凡庸な私にはそれができません。
賢者になるべくしかるべき場所に行き修行を積む必要があるのですが、生活のために会社員という身分を捨てることができず、都市に縛りつけられております。
うーん、困ってしまいました。
進退極まった私は、技術の力に頼ることにしました。

ノイズキャンセリングをする

最近のノイズキャンセリングイヤホンの進化は凄まじいです。
ノイズキャンセリングの原理は、外音と逆相の音波を発生させることで外音を打ち消す(キャンセルする)ということらしく、すごいことを考える人もいるものだなと感心しました。(ただ、高周波の音は逆相の音波を発生させるのが難しいため、精度は落ちるようです)
ノイズキャンセリングを有効にすると、まるで水の中に潜ったかのような感覚になり、特に空調の音などの低音は完全に消えます。人の話し声は聞こえてしまいますが、音楽を流せばそれも聞こえなくなります。

ノイズキャンセリングをしていたら、昔にBOSSコーヒーのCMで宇宙人が「この惑星は騒がしい」と言って耳にシャッターをして外音を遮断していたのを思い出しました。
田舎に住んでいた頃にそのCMを見て、「まあまあそんなこと言わずに、ちょっとは外音に耳を傾けてあげてもいいんじゃない?」と思っていたのですが、今となってはその宇宙人に完全に同意してしまいます。
その宇宙人は、この惑星に順応するのではなく、耳にシャッターをするという技術の力で異邦人であり続けようとしました。
私も、せかせかした都市に順応するのではなく(というか順応できない)、ノイズキャンセリングをするという技術の力で異邦人であり続けようと思います。

異邦人

先ほどノイズキャンセリングをすると、まるで水の中に潜ったような感じになる、と言いました。
周りから音声が消え、すると周囲の風景が絵になる。うまく言い表しにくいのですが、そういった感覚になります。
周りの人々が何を話しているか聞こえないので、人々は相互にやり取りできる自分と同じ生身の人間ではなく、人物画になってしまうのです。
そうしてしまうと、本当に自分が異邦人になってしまった感じになります。
いざ本当に異邦人になってしまうと、白昼夢の世界にいるような感じがして、これはこれで少し怖いかもしれません。
しかし、幸いなことに自分には帰るべき家があるので、寄る辺のある異邦人です。そこではノイズキャンセリングを外して、浮上して生きていこうと思います。

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