寄る辺なき異邦人:この世界と、物理シミュレーションゲームの世界

寄る辺なき異邦人:この世界と、物理シミュレーションゲームの世界

物理シミュレーションゲームの楽しさ

私はゲームを作るのが好きですが、その中でも特に好きなのは物理シミュレーションゲームです。
物理シミュレーションゲームとは、物体の運動、衝突、重力、摩擦などの物理的な挙動を計算し、これをシミュレーションすることを題材としたゲームです。
例えば、最近話題になっているマージパズルゲームの「スイカゲーム」にも、重力や衝突などの要素があるので物理シミュレーションゲームとしての側面があります。
物理シミュレーションの要素があるアクションやパズルのゲームは、本当に自由度が高くてワクワクし、私はこれを愛すべき小さな箱庭だと思って大切にしております。

最近話題のスイカゲーム。果物を落下させ、同じ種類の果物を合体させてより大きな果物にする。

物体の落下

例えば、物体の落下をシミュレーションしてみましょう。
物体の落下は等加速度直線運動です。
加速度とは、物体の速度がどれだけ変化するかを表すものです。
これを踏まえると、等加速度直線運動とは「一定のペースで速度が増加していく直線運動」ということになります。
確かに、高いところから物を落とすと、手を離した瞬間はゆっくりでもそこからグングン落下スピードが上がっていきますよね。
これを定式化すると、重力加速度を gg とすると物体が落下してから tt 秒後には 12gt2\frac{1}{2}gt^2 だけ下に行っています。

実際にゲームとして実装する際には、 gg を重力加速度ベクトルとして表現し、毎フレームごとに ggΔt\Delta t 倍を物体の速度ベクトルに加算して重力を表現することが多いかと思います。
つまり、1フレーム経過するごとに下の方向に ggΔt\Delta t 倍分だけ早くなっていくということです。
これは加速度の積分を加速度の和で近似していることになるのですが、時間の刻み幅 Δt\Delta tが十分に小さければ誤差は相当小さくなります。
多くのゲームは1秒間に60フレームの紙芝居が繰り返されることで動画のように動いて見えますが、60分の1秒を知覚できる人は恐らくいないでしょうし、これは連続した動きに見えます。

物体の自由落下の速度には質量は関係ないため、空気抵抗を無視すればリンゴも羽も同じ速度で落ちる。

重力加速度の根源

重力加速度 gg は現実の世界では g9.8[m/s2]g \fallingdotseq 9.8 [m/s^2] として観測されています。
重力加速度は定数として存在しているわけではなく、実は低緯度の場所ほど小さくなります。
そういうわけでどの国も重力が小さい低緯度の地域にロケットの発射場を建てるわけですね。

では、重力加速度の根源にあるものは一体何なのでしょうか?
それは、万有引力の法則です。

重力加速度 gg を万有引力定数 GG 、地球の質量 MEM_E および地球の半径 RER_E で以下のように表すことができます:

g=GMERE2g=G \frac{M_E}{R_E^2}

この式の手触りを試すために、分母に地球の半径 RER_E が来ていることに注目しましょう。
地球は完全な球体ではなく、赤道方向に扁平な形をしています。みかんのようなイメージですね。
このため、赤道方向には地球の半径 RER_E が長くなるので、重力加速度は低緯度の場所ほど小さくなります。
このカラクリで先程の話と繋がるわけです。少しイメージしやすくなったでしょうか。

地球は完全な球体ではなく、赤道方向に扁平である。

根源:基礎物理定数

さて、万有引力定数 GG は、基礎物理定数として知られています。
基礎物理定数とは、物理学者が特定した、全宇宙を通じて不変であると考えられる定数のことです。
基礎物理定数には、他にもプランク定数やアボガドロ定数などがあり、これらは非常によく知られています。

また、重力についてはわかっていないことが多いらしく、そして万有引力定数の測定精度は基礎物理定数の中でも最も悪いのだといいます。
もしかしたら、万有引力定数のさらに根源にあるものが存在するのかもしれませんが、一旦これを定数として扱ってるものだと私は理解しています。

重力とはいったい何なのだろうか。

寄る辺なき異邦人

根源であるはずの基礎物理定数も、時代が進むにつれ実は更なる根源から生み出されているものであることが判明するかもしれませんが、結局今のところはよく分かっていません。
私の生きているこの世界が、実はよく分からない根源で動いているのだということ。
コンクリートだと思っていた土台が実はぬかるみで、足元から崩れていくような感覚を覚えます。

私は今まで、物理シミュレーションゲームの世界を異邦だと思っていました。
しかし、物理シミュレーションゲームの世界と違って、この世界には根源の更なる向こう側がある可能性があります。
未知の世界を異邦と呼ぶのであれば、異邦であるのはまさにこの世界の方なのかもしれません。
私のいる世界は決して当たり前のものではなくなり、私は見知らぬ世界を彷徨う、寄る辺なき異邦人になってしまいました。

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