Hex Power Supplyとエネルギーミックス
きっかけ
2022年は電気料金が継続的に引き上げられた年でした。
原因は燃料高と円安でしたが、そもそも日本の電力システムはどのように構築されているのかということに興味が出ました。
そこで、色々調べたところエネルギーミックスという言葉を見つけました。
地理的条件や安定性など様々な要因を考慮しながら発電方法を組み合わせることにゲーム性を見出したので、これをゲームにしてみることにしました。
完成したもの
まず、完成したものの紹介です。
Playボタンをクリックするとすぐに遊べます!
エネルギーミックス
エネルギーミックスの定義について、中小機構から引用します。
エネルギーミックス(ベストミックス)とは、加工されない状態で供給される石油、石炭、原子力、天然ガス、水力、地熱、太陽熱などの一時エネルギーを転換・加工して得られる電力について、経済性、環境性、供給安定性と安全性を重視した電源構成の最適化のことをいいます。
重視する指標として、以下の4つが挙げられています。
1. 経済性
発電コストは低いほど良いです。
ゲームには、発電コストを発電所の設置コストとして反映させました。
2. 環境性
例えば、火力発電は温室効果があるとされる二酸化炭素を排出するため、環境性が悪いです。
ゲームには環境性を直接的には反映させませんでしたが、排出権取引の考えを応用して間接的に反映させました。
排出権取引とは、CO2を排出する「排出枠」を設定し、その排出枠を取引する制度です。
火力発電には純粋なコストの他に排出権の購入費を上乗せし、他の発電方法よりも発電所の設置コストが高い(つまり、経済性が悪い)ものとしました。
"Simple law, Complex behavior"というコンセプトでゲームを製作しているため、できるだけシンプルなルールにしたく、このように環境性を経済性に織込みました。
3. 安定性
2022年は燃料費の高騰により供給が不安定化しました。
以下のような要因により供給の安定性が脅かされます。
- 台風などの自然災害の発生(太陽光発電や風力発電に影響)
- 戦争の発生(エネルギーを輸入している場合に影響)
ゲームには、燃料費の高騰や自然災害の発生を偶発的なイベントとして反映させました。
4. 安全性
安全性リスクといえば、原子力発電所が挙げられます。
ゲームに反映させる場合、原発事故を偶発的なイベントとしてしまうといわゆる「運ゲー」と化してしまうため、そうはせずに
「原子力発電所は人口密集地の近くには建てられない」という地理的制約として反映させました。
ゲームの構成
ゲームの目的は、上記の指標を満たす最適な電源構成を構築することです。
ゲームは以下の3つのステップに分かれています。
- 電力システムの構築
- 日々の暮らしを守る
- 日々の実績に応じた評価
1. 電力システムの構築
画面は以下のようになっています。
予算制約
発電所を建てるためにはコストがかかります。
このステージの場合、予算は5,000で、残り800です。
地理的制約
六角形のセルは、色に応じて以下の地形になっています。
- 緑色■→ 平原
- 水色■→ 水場(川、湖、海など)
- 茶色■→ 山
地形によって建てられる発電所が決まっています。
発電量の調整
以下のスライダを調整することで、発電量を調整できます。
火力発電所は30-100の範囲内で発電することができ、上の画像では現在50だけ発電しています。
現実の話に戻ると、電力の供給が少ない場合だけでなく、電力の供給が多すぎる場合でも停電が起きます。
このゲームでも目的地に適切な量の電力を届けないといけず、したがって電力の調整が柔軟にできるかというのはかなり重要になってきます。
2. 日々の暮らしを守る
燃料費の高騰や自然災害の発生などのイベントに対して、各発電所の発電量を調整して対応します。 例えば、以下のように対応します。
燃料費が高騰
→火力発電所の発電量が減る
→他の発電所の発電量を増加させて対応する
主な発電方法の特徴
火力発電
柔軟に大量の電力を供給できるため非常に便利ですが、燃料に関するトラブルに弱いです。
また、二酸化炭素を排出するため、環境性が悪いです。
石炭火力発電や天然ガス発電など、燃料の種類によってさらに細分化されます。
地理的条件としては、冷却水を確保する必要があることや、燃料をタンカーで輸入することが多いことから、水場(海や川など)の近くである必要があります。
水力発電
水の位置エネルギーを利用して発電する方法です。
高所にダムを建設する必要があることなどから立地条件が厳しいですが、低コストで安定的に大量の電力を供給できるため非常に便利です。
ただし、ダムから放出する水の量を変更すると下流の地域にも大きな影響が出るため、出力の調整を柔軟に行うことが困難です。
原子力発電
大量の電力を安定的に供給できる一方で、水力発電と同じく小回りが利きにくいです。
また、上述の通り安全性リスクがあります。
このゲームでは、「原子力発電所は街から6マス以上離れた場所にしか建てられない」という地理的制約を課すことで安全性リスクを表現しました。
太陽光発電
太陽光発電は、少量の電力を低コストで供給できますが、悪天候に弱いです。
風力発電
風力発電は、少量の電力を供給できますが、悪天候に弱いです。
このゲームでは、太陽光発電との違いとして、洋上にも建てられるようにしました。
エネルギーミックスの定石
これらの発電方法の特徴を踏まえると、エネルギーミックスの定石として以下の戦略が挙げられます。
エネルギーミックスの定石
- 水力発電や原子力発電をベース電源とする
- 火力発電をベース電源または機動的に調整可能な電源とする
- 自然エネルギー発電(太陽光発電、風力発電)を火力発電を補完する機動的に調整可能な電源とする
実際のところ、各国のエネルギーミックスは以下の通りとなっております。
【出典】資源エネルギー庁「二次エネルギーの動向」(2021/07/19更新)
多くの国は火力発電をベース電源としておりますが、フランスは原子力発電をベース電源としております。
また、この表にはありませんが、北欧やブラジルなどは水力発電をベース電源としています。
おわりに
エネルギーミックスと、それをベースにしたシミュレーションパズルゲーム Hex Power Supply について解説しました。
エネルギーミックスは非常に戦略的で面白く、また、再エネや核融合発電などのゲームチェンジャーの存在もあって今後も戦略が動き続けると思われます。
機会があればまた解説したりゲームの題材にしたりしたいです。